情報系の手考ノート

数学とか情報系の技術とか調べたり勉強したりしてメモしていきます.

発表資料と発表練習のコツ

自分が思う発表資料作成や発表練習におけるコツだったり意識しておくと良い点について書きます. とは言っても発表のコツなどは調べれば腐るほど出てくるので,特別重要だと私が思う内容や,あまり目にしない内容について言及します. また自分への戒めも込めた内容になります.

追記 (2023/03/24): "数式はうまく使えばわかりやすい"という部分を追記

スライドは読ませない

これはとても重要です. 古事記の天岩戸のあたりにも書いてあります. スライドを使った発表では当然発表者が何かを話します. この発表でメインは発表者の発言であり,スライドはその補助です. スライドにたくさん字を書いて読ませるというスライドを主とした発表ではなく,話している内容の理解を補助するためにスライドを使うというのが適切です. これがスライドを使った発表における大前提です. その結果として重要な情報を視覚的にわかりやすく伝えるようなスライドができあがります. 決して字でぎっちぎちのスライドを読みあげるわけではありません. 字は適宜色や大きさによって強調され,また図を用いた説明が行われます.

そして聴衆がスライドを見るのに意識を割かないように注意する必要があります. 聴衆がスライドに書いてある字を読んでいて話をほとんど聞いていないというのは論外とすら言えます. これでは発表者が話す必要がありません. 適当なところにスライドを貼っておけばいいのですから. そういったことを意識してスライドを作ると,発表時には必然的にスライドに書かれていない文を話すことになります. つまり話す内容を暗記,ないし台本の用意が必要になります. オンラインでの発表では台本を見ながら発表できるかもしれないですが,対面で発表しようとすると台本を見ながらの発表は少し見苦しいところがあります. 見苦しいだけでなく声が小さくなったり,台本を読むことに意識をとられたりすることで発表の質の低下にも繋がります. 発表時間の調整のためというだけでなく,この発表の台本を暗記するためにも発表練習は必要になります.

デザインを意識しろ

前述しましたがスライドはぱっと見てわかりやすい必要があります. その上で発表者が詳しく説明するというのが,わかりやすい発表へと繋がります. となると意識しなければならないのはデザインです. 決して洒落たデザインにしろだとか,オリジナリティあふれるデザインにしろとかいうわけではありません. 最低限人に伝わりやすいデザインを心掛けるべきです.

最低限のラインがどこにあるかというのは難しいところですが,まずは字の大きさでしょう. 適度に見やすい大きさにする必要があります. 小さすぎれば見にくく,大きすぎればスライドに必要な情報が収まらなくなります.

また字や図の配置も重要です. ぐっちゃぐちゃに並んでいるより,意味を持たせて整列させている方が聴衆は理解が早くなります. あとは使う色を背景の白,字の黒,強調する用の赤,少し目立たせたい時用の青や緑,くらいにして作るだけで格段に見やすいスライドになります.

人に物を伝えるためにスライドを作るなら,最低限のデザインの知識は持っておくと良いです. そういうレベルのデザインであれば,知識さえあればなんとかなります. 才能なんてものはいらないので軽くネットで調べて,見やすいスライドを心掛けでください.

字は減らせ,図を入れろ

これは皆言ってます. 古事記にも書いてあります,天地開闢のあたりに. 字が多いスライドより図を使っているスライドのほうが見やすいというだけの話です. できるだけ字ばっかりのスライドにならないようにしましょう. 上でも述べましたが文章がいっぱい書いてあるなら,発表する必要がなくなります.

まずはスライドに文を書くのをやめることから始めるだけでも変わってきます. "○○である"と書かなくても"○○"と書くだけで十分です. なにせ発表するときにちゃんと説明するはずですから.

スライドを縮小してみると,ある程度字が多すぎないか確認することができます. 適宜やってみると良いと思います.

聴衆は想像以上にアホ

ものすごく誇張した過激な表現をしましたが,これは人に物事を説明するとき全般に言えることです. もちろん本気でアホだと言っているわけではなく,それくらいの気持で丁寧な説明を心掛けるべきという話です. 当然発表する以上は"聞いて下さってありがとうございます"という気持ちを忘れてはいけません. 見下すような気持ちでいると,結構その意識が透けて聴衆に伝わってしまうものです. どんなにスライドが良くてもそれではちゃんと聞いてもらえません. しかし説明するときは過剰なくらい説明した方が親切です. というか過剰なくらい説明しないと伝わってないことの方が多いです.

基本的に発表は発表者から聴衆への1方向のコミュニケーションになります. 発表中に聴衆がどこかで理解に詰まってしまうと,その箇所の理解をしようとし,結果として話が聞かれなかったりします. これはどうしようもないです. 理解できない箇所があるとその後の内容がわからなくなったりするわけですから,ちゃんと聞こうとするなら誰だってそうします.

こういった問題に対処するには発表内容に冗長性を持たせる必要があります. 一度説明した用語だからもう説明しなくて言いだろう,という考え方では伝わりにくい発表になりかねません. 同じことを数回言う,表現を変えて同じことを説明する,そんな工夫をするだけでずっとわかりやすい発表になります. ただし,あまりにもたくさん同じことを言うようではくどくなって,これもまた話を聞いてもらえない要因になります. 客観的に発表内容を吟味し,くどく無い程度に冗長性のある発表をする必要があります. このためには発表練習を誰かに聞いてもらうのが良いでしょう.

数式はうまく使えばわかりやすい

理論の説明や損失関数等で数式を使う必要が出てくることはあるでしょう. ただし数式を使う場合はうまく使う必要があります. 簡単な数式であれば説明の補助として非常に有用です. 例えば意味が明らかな変数同士の和をとる分には聴衆も十分に理解できるでしょう. しかし式中の変数の意味が不明瞭であったり,大量に変数が存在して混乱しやすいような場合には話が変わってきます. 他にも式の意味が明快でない場合も同様です. このような場合には聴衆はよくわからない式を見せられたことになります. その式が関連分野でほとんど常識レベルのものであれば良いですが,そうでない場合はしっかりと説明しないと理解してはもらえません. 逆に数式の意味するところを正しく十分に伝えきれている場合は,その後の説明が非常に楽になる場合もあります. もしある程度難しい数式を見せる場合には,かなり多めに説明する尺を取った方がいいと思います.

以上のことから基本的にスライドに数式は使わない方針にするのが良いと思います. ただし手法の説明にどうしても必要であるような場合には,説明に十分な時間を割きつつ記載したりすると良いでしょう. また聴衆が一目で理解できるような場合は図と同じように使って問題無いでしょう.

音声合成ソフトが便利

ある程度長い発表になると発表練習や時間の調整ですら手間になります. 20分の発表では時間の調整のために最低でも20分かかります. 1度発表してみて短いからもう1回やってみる. これだけで40分必要です. そんなときに音声合成ソフトウェアを使うと時間の節約と発表の質の向上に繋がります.

音声合成ソフトでは入力されたテキストから音声を生成します. このとき話速,すなわち話す速さが設定できることが多いです. また生成される音声は,当然音声ファイルになります. 発表内容を全て入力し,聞きやすい話速に設定して生成された音声データの長さ,つまり時間を見れば発表しなくてもどれだけ発表に時間がかかるかを知ることができます. これで発表の時間調整に必要な時間を節約できます.

さらに話速を適切に設定すれば,早口になってわかりにくい発表になることを予防できます. 台本とスライドができたら,あとは生成した音声を聞きながら発表練習をするだけで,聞きやすい速さで話しながら時間ぴったりで発表できるようになります. これクッソ便利です. 特に私は早口になりがちなので非常に助かりました. 全人類使った方が良いと思います. なんならこの記事はこれを書きたくて書いたまであります.

さてこの発表練習用に使うと便利と述べた音声合成ソフトですが,2023年現在恐しいほど大量にあります. 少し前までは無料で使えるものは少なかったものの,機械学習の発展によって無料のソフトが大量に出てきています. 最古参と言える,ゆっくり音声等として有名な AquesTalk,機械学習によって近年現れた VOICEVOX や COEIROINK,CoeFont,TALQu 等です. なんとこれらは無料のソフトなので,ダウンロードなりアカウント登録なりすればすぐに使えるようになります. 有料なものであれば VOICEROID,A.I.VOICE,ガイノイド Talk,CeVIO Creative Studio,CeVIO AI 等もっと選択肢は増えてきます.

こんなにたくさんあるわけですが,金に糸目をつけないというのであれば CeVIO Creative Studio か CeVIO AI を強く勧めます. この2つは UI がほとんど同じで,CeVIO Creative Studio は 7,000 円程度,CeVIO AI は 17,000 円程度かかります(セールとかしていればもう少し安くはなるし,ちょっと売り方が特殊なのでもし買うなら気をつけてください). 発表練習のためだけにしてはかなり高いですが,この2つは時間の調整が異常なまでに楽です. CeVIO AI の画面は下図のようになっていて,各セリフの終了時間がわかるようになっています(文面をぼかしたら画面中ぼかしになっちゃった…)

CeVIO AI の画面例.画面中央に縦に並んでいるのが各セリフの終了時間
設定を変えれば各セリフの時間もわかるようにできます. おかげでスライドごとの時間すら測れちゃいます. 時間調整が恐しく楽になります.

CeVIO Creative Studio なら30日間限定の無料体験版があるので,それを使えば1度の発表の準備くらいは十分できるかもしれません.

お金をかけたくないというのであれば A.I.VOICE に無料で使えるものがあるので,それを使うのが良いと思います. 栗田まろんというキャラクタの声に限り A.I.VOICE を無料で使えます. 開発元の株式会社エーアイと,声の元となったニコニコ代表の栗田穣崇氏に絶大の感謝を持って使わせてもらいましょう. A.I.VOICE であれば音声の書き出しを行わずとも再生時間が確認できます. A.I.VOICE の画面は下図のようになっていて,入力した内容全体の再生時間を確認することができます.

A.I.VOICE の画面例.
これでも十分発表練習に使うという用途として十分便利だと思います.

これら以外のソフトは(私が知る範囲では)再生時間を確認するためには音声を書き出す必要があるので手間がかかります. とはいっても話しながら発表練習する場合と比べて,合成された音声で台本の調整をする方が早口になりにくく便利ではあると思います.

その他より質を上げるには

以下はそんなに気にする必要が無いけど,気にする余裕があるなら気にしておくと良いだろう,そんな点になります.

色覚障害者を意識する

カラーユニバーサルデザインというやつです. 別にこんなの気にしなくても,色覚障害者以外からしてみれば関係のないものになります. ただ気にしておくと自己肯定感が上がるので,やってみてもいいかもしれません.

黒は濃すぎないほうがいい

字に使う黒は 0x000000 でなく 0x333333 のような濃い灰色くらいにしておくと良いというものです. 理由はよく知らないですが,このほうが良いらしいです. なんか見た目がそれっぽくなるので自己肯定感が上がります.

まとめ

思いつく限りでコツのようなものを書いてきましたが,個人的に言いたいのは音声合成ソフトは便利だぞという話です. 他の話は適当にググれば出てくるし,先輩なり指導教員なりが教えてくれることだと思います. この記事を通して伝えたいのは,(状況に応じて)使えるものは使えということかなと思います.