情報系の手考ノート

数学とか情報系の技術とか調べたり勉強したりしてメモしていきます.

次元を意識した数式の見方

物理現象に関連する数式では各変数に長さや重さ等が対応しています. これらをうまく使えば式変形等の正当性の確認や,逆に始めて見た式の理解の助けに役立ったりします. ここで長さや重さ等は次元と呼ばれており,この次元を意識して数式を読む方法についてこの記事で述べていきます.

前置き

物理現象に関する式の変数には次元というものがあります. ここで言う次元とは長さや重さ,時間や速さ等,いわゆる単位のことです.

例えば長さ a\; [\mathrm{m}],半径 r\; [\mathrm{m}]の円柱があり,この円柱の重さが m\; [\mathrm{k g}]だとします. このときこの円柱の体積は r^2 \pi a\; [\mathrm{m}^3]になります. また密度は \frac{m}{r^2 \pi a}\; [\mathrm{k g} \mathrm{m}^{-3}]となります. ここで体積に注目すると,長さに相当する rの2乗と長さに相当する aの積になっています. つまり長さを3回乗じているわけです. これに体積の単位を見ると,同じように長さであるメートルの3乗となっています. 同じように密度の単位の重さを体積で割ったものになっています. 乗算や除算において単位はそのまま影響を受けていることになります.

他の場合でも同じようなことが成立します. 例えば a\; [\mathrm{m}]を t\; [\mathrm{s}]で走った場合の速度は \frac{a}{t}\; [\mathrm{m} \mathrm{s}^{-1}]であり,やはり除算と対応した単位になっています.

では足し算や引き算についても考えてみましょう. 足し算の場合として, a\; [\mathrm{m}]と b\; [\mathrm{m}]を足す場合はどうでしょう. この場合 a bの和は長さになる,つまり a + b\; [\mathrm{m}]と見るのが自然でしょう. 引き算も同様に,同じ単位同士の和や差では単位が変わらないと見るのが自然と思われます.

では異なる単位同士ではどうなるでしょう.  a\; [\mathrm{m}]と b\; [\mathrm{k g}]の和を考えましょう. これは長さと重さを足しているわけですが,この和の単位を考えることに意味が無いように思います. 実際物理の式においてこういった,異なる単位を持つ値同士の和や差には意味がありません. 等号や不等号でも同様で,異なる単位を持つ値同士の比較は意味を成しません. まぁ 3\;[\mathrm{k g}]と 3\; [\mathrm{m}]が等しい!とか言われてもだから何?としかならないので,直感的に妥当と言える話でしょう.

次元

ここまで単位として"メートル","キログラム","秒"を用いて数式中に現れる単位と四則演算の関係について見てきました. これらはそれぞれ"長さ","重さ","時間"の単位であり,同様の単位では"尺","ポンド","分"等異なるものもあります. ですが"長さ","重さ","時間"をそれぞれ表しているというのは同じです. この"長さ","重さ","時間"は次元と呼ばれていて,例えばある棒の長さが a\; [\mathrm{m}]であると言った場合には, aは"長さの次元を持つ"みたいなことを言ったりします. また円周率や比,角度等は次元を持たず"無次元量"と呼ばれます.

式中の各変数や定数に次元が与えられれば,式全体にも次元が定まります. 和や差は同じ次元を持つもの同士でなければ意味を成さず,積や商で次元が変化します. また例外的に無次元量と積をとっても元の変数の次元は変化しません. 長さを何倍しても長さのままと言えば意味は伝わると思います.

このことから式全体の次元がわかっていれば,特定の変数の次元を推測することができます. 例えば


  m \frac{d^2 \theta}{d t^2} = - \frac{m}{l} g \sin \theta

という式があり, \thetaが無次元量, mの単位が [\mathrm{k g}], lの単位が [\mathrm{m}], tの単位が [\mathrm{s}]だとします. このとき gの単位を推測してみましょう. ここで微分が出てきていますが,割り算と同じように考えて問題がありません. すると左辺の単位は [\mathrm{k g} \mathrm{s}^{-2}]になります. 異なる単位同士を等号で結ぶことに意味が無いという点から,右辺も同じ単位になっているべきでしょう.  \sin \thetaは無次元なので単位として考えるなら無視して良さそうです. となると考えるべきは \frac{m}{l}の単位で,これは [\mathrm{k g} \mathrm{m}^{-1}]となります. ここから逆算すると gの単位は [\mathrm{m} \mathrm{s}^{-2}]となります. これは加速度の単位と対応します. 実際上の式は重力加速度を gとした単振り子の運動方程式です. このように不明な変数があったときに,その変数の意味を推測することが可能になります.

今の例では SI 単位をベースに使いましたが,他の単位でも同じことができます. 電位や電流を使った式として


  \tau \frac{d V(t)}{d t} = - (V(t) - V_\mathrm{rest}) + R I(t)

という式を考えます. ここで tを時間, V(t)は時刻 tにおける電位, V_\mathrm{rest}を電位, Rを抵抗, I(t)を時刻 tにおける電流とします. このときオームの法則において抵抗と電流の積が電位になることを思い出すと \tauが時間の逆数の次元を持つことがわかります. ここで時間の単位に秒を採用するなら, \tauの単位は [\mathrm{s}^{-1}]となるということです. 実際にこの式は Leaky Integrate-and-Fire モデルと呼ばれる,ニューロンの膜電位のモデルで, \tauは時定数となり次元が一致します.

このように次元を意識することで知らない式の謎の変数が何者がを考察することができるようになります. 次元のメリットはこれだけでなく,自分で式変形した式の正当性の評価にも使うことができます. これは単純で,変形した式と変形前の式の次元が一致するかを確認するだけです. もし一致しなければ何か変なことをしでかしたことになります(一致したから正しいとはなりません).

まとめ?

以上で述べたように次元を意識すると式変形や知らない式を理解するときに役立ったりします. ただ次元を持った 1が省略されたりしていて困るときがありますが,式変形等では大いに役立つので,機会があれば気にしてみることを推奨します.